前回では関節円板の変位は戻らないのに痛みは消える。
けれどクリック音は残ると言うところまでお話ししました。
クリックに関しては、関節内に起こっている問題の指標にはなりますが、関節症の重症度とは必ずしも一致しません。また、完全に消失させることはほとんど不可能な為、機能不全を伴わない場合は治療の対象にしないのが最近の考え方です。
その背景には1990年代アメリカにおいて数万人が人工関節円板置換術(外科手術)を受けましたが、後遺障害のためにほとんどの人工円板は除去されることとなってしまいました。
訴訟の山となり、後遺症に悩む患者さま達によりJJAMD財団が設立されます。
以下その声明です。
現在、顎関節症に関しては多くの混乱と論争があります。専門の治療科がない、コンセンサスがとれていない、保険を利用したくても医学的な必要性が認められず、世間に受け入れられる保険のプロトコルもありません。それでいて疫学調査ではTMDを患っている患者は人口のかなりの割合を示しているのである。
顎関節は医学と歯学の間の割れ目に落ちてしまった癒し芸術の腹違いの子のようなものである。その結果、顎関節に関する問題は健康管理の担当者やマスコミから適切な敬意や配慮を受けていません。患者は十分な知識が不足しているため、高額な費用のかかる診断と治療を授かるために専門家と専門家の間をピンポン玉のように行ったり来たりし、治療したにもかかわらず残っている無数の身体症状に対して医科での診断を受けたあげく「精神的な歯科領域の問題」という分野に送り込まれてしまいます。
TMD患者はしばしば家族、友人、仕事関係者から見捨てられます。さらに社会保障の権利も奪われることになりさらに罰を受けることになります。患者の慢性化した痛みや機能不全の結果、生産性が損失し社会共同体全体に影響を及ぼします。環境は著しく劣悪で悪夢としてすべてに関わってきます。
JJAMD財団は顎関節症が美辞麗句により泥沼に落とされてしまったものという信念のもと1982年に設立しました。
JJAMDは顧問議会で患者の痛みや高くついた健康管理を解決するための活動を続けていきます。
政府の対応としては1996年5月にアメリカ国立衛生研究所(NIH)の声明が発表されました。
NIH声明を発表するにあたり連邦議会としてカンファレンスを15名の専門家の発表、23名のエキスパートの報告、1083名の関係者の参加者により行いました。
声明の要旨
1 TMDの初期治療として、他の方法より優れていると認められる治療法は無かった。加 えて、それらの治療法が、プラシーボを使った場合や治療をしなかった場合に比べて、 より有効であるかは未確認である。ほとんどの場合、保存的方法で症状の改善や寛解が 得られるという統計的研究からみて、大多数のTMD患者では非侵襲的で可逆的処置を 適用すべきである。
2 いくつかの一般的に信じられている考えには、それが正しいと信ずるに足るデータが 存在しない。例えば、歯科矯正治療はTMDを予防するのか、悪化させるのか、引き金 を引くのかを判断するに足るデータは存在しない。現在のデータからすると口腔外科的
療法と咬合を恒久的に変化させる治療法は推奨されない。
3 痛みと機能障害を持つTMD治療の最も有望なアプローチは、エビデンスに基づいた医 療と患者中心のケアの結果得られるだろう。休養と行動認知療法は慢性疼痛のコントロ ールに効果的である。
と言うものだったのです。
つまり・・・お恥ずかしい現状ですが
実は顎関節症に関して確実にわかっていることは何もないということなんです。
ですが大規模な疫学・統計調査の結果、顎関節症の症状の出現はほとんどの例で一時的であり、再発することもあるが9割近くの例で症状が重くなることがないということが世界的に明らかになったのです。
じゃあ口が開かなくても、痛くてもただ時が過ぎるのを待っていれば良いのでしょうか?
次回は治療法について考えてみたいと思います。